オフィスク 編集部
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講師コラム

シリーズ:AIと働く時代に、これから伸ばすべきスキル
「生成AIを導入して、一人ひとりの作業は減ったはずなのに、現場の忙しさが変わらない」。最近、そんなお話を伺うことが増えました。
前編に続き、Excel講師であり、企業の業務改善の現場に自ら入り込む実務家でもある大平知佳先生に伺います。今回のテーマは「仕組み」です。作業を仕組みに変えるとはどういうことか。その基準は、どこにあるのか。研修と現場の両方から見えていることを、お聞きしました。
※前編はこちら:AIと働く「Excel・業務効率化」は、何が変わって、何が残るのか
ー大平先生が考える「仕組み化」とは、そもそもどういうものでしょうか。
大平先生: 仕組み化は、私から言うと楽をするためのものです。
同じことを明日も明後日もやりたくない。そのときにミスをして「ごめんなさい」と言いたくもない。仕組みにしてしまえば、それらが解決できる。そういう発想です。
ー仕組みにするかどうかの基準はありますか。
大平先生: 私の中での基準ですが、3回それをやるんだったら、もう仕組みにした方がいいと思っています。
これはExcel上の仕組みを作るのでもそうですし、業務フロー自体を変えるのでも、何でもそうです。1回だったら、仕組みにしなくてもいいのです。そのときだけ頑張れば済むので。でも3回やるんだったら、もう仕組みを考えた方がいい。そう思いながらやってきました。
ーとはいえ、仕組み化は難しい取り組みだと感じている方も多いのではないでしょうか。
大平先生: 確かに、難しいと考える方もいるかもしれません。でも、本質的には自分が楽になるためのものだから、「これ面倒だな」「ここ、よく間違えるんだよな」というところは、仕組み化しやすいポイントだと考えていただくといいと思います。
少し大きなステップの話になりますが、実際に作るときは、まず現状把握です。そして、現状把握で分かったことによって、次にやることが分岐します。
同じシステムの中でどうにかできるものなのか。それとも、人と人とのコミュニケーションを円滑にすることで、何か仕組みができないものなのか。あるいは、システムになっていない生のデータを、Excelでどうにかしたいものなのか。そもそも、その業務は要るのか。そういう整理から始めます。
困っていることを起点にして考えるのがいいと思います。たとえば、タスクが漏れてしまって困っているとしたら、「タスク管理をする」という仕組みを作る。では、どう作るか。タスク管理のアプリを使う手段もあれば、いま使っているAIでやる方法もある。手段は、そのあとで決まります。
自分一人の仕事でも、チームや部署の単位でも、考え方は同じです。規模が変わっても、困っていることから考える、というところは変わりません。

ー「現状を把握しましょう」と言われても、自分の仕事をうまく分解できない方もいそうです。どうすれば、分解できるようになるのでしょうか。
大平先生: ご自身の仕事がいまA、B、C、Dと進んでいる、とは意識されていないんです。「いまZをやっているよ」と一括りにして捉えている。そういう方も、やっぱりいらっしゃいます。
業務をステップバイステップで考えること。これは実は、Excelの操作を理解することとても相性がいいんです。
Excelは「1セル、1データ」という原則で入力していくものですが、全部ステップバイステップで組んでいかなければいけません。
だから、Excelを使いこなしている方には、データを整理して構造化する考え方が身についていることが多いと感じます。でも、それだけではありません。ステップバイステップで物事を考えたり、ロジックツリーを組んだり、ロジカルシンキングができたり。そういうことが同時に紐づいて、力になっています。
ですから、業務整理をしようというときにも、Excelが得意な方は取りかかりやすいんだなと感じています。
ー生成AIを使えば使うほど、業務のボトルネックが自分になっている、と感じることがあります。
大平先生: それは、作業的なボトルネックという意味と、監督者的な役割が自分に回ってきたという意味と、2つあるのかなという気がしています。
一つは、AIがいくら答えを出してきても、実行するのは自分、という意味でのボトルネックです。
直近でも、会社の中でさまざまなツールを使うようになりました。チャットツールも使うとなったときに、あちこちから依頼や相談が飛んでくる。結局、自分が何をやらなければいけないタスクなのか分からなくなってしまう。そういうことがありました。
一つひとつAIがうまく分析して答えを出してくれても、「あ、送っていなかったです。すみません」ということがあったら、もう仕事として意味がないじゃないですか。でも、そういうことは起こり得ます。
なので、タスク管理そのものにAIを入れています。自社では、Slackやメールを全部横断して毎日見て、返信できていないものを全部洗って、未完了のタスクを全部拾う、というような使い方です。そうやって、作業の漏れを防ぐことはできます。
ーもう一つの、監督者的なボトルネックのほうはいかがでしょうか。
大平先生: 結局、AIが「こうです」と言ってきたことを採用するかどうかを決める。「いや、そうじゃないよ」と言って、どう修正するかを指示する、考える。そういうことも問われているとすると、判断する力そのものは、やっぱり経験を積んでいくしかないと思っています。
ー生成AIの登場は、人の学び方そのものにも影響を与えていると感じますか。
大平先生: 人の学び方も大きく変わると思います。
いままでは、まず学んで、練習して、できるようになって、実際の課題に立ち向かっていく。そういう流れが一般的だったと思うんですけれども。
AIがあれば、その順番をギュッと飛び越えられます。やりたいと思ったら、もうAIと一緒にやってみて、途中で「これは何?」「なんでこうなるの?」ということを後から学んでいく。「学んでからやる」ではなく、「やりながら学ぶ」ということが、すごくやりやすくなったのかなと思います。
ただ、注意点もあると思っていて。やろうと思えば、AIが全部やってくれるじゃないですか。
でも、それって「AIが言っている全部って、本当に全部なの?」ということを、疑わなくなってしまう。あるいは、人間が試行錯誤する過程まで飛ばすこともできてしまうので、そうすると、経験値が蓄積されません。
ですから、何を覚えるかだけではありません。AIと一緒に実践しながら、どこを自分で考えて、失敗して、経験を積むのか。そこまでを含めて学習を設計していく。それができるといいのだろうな、と思っています。
ーそれは、一人でやるには難易度が高い気がします。
大平先生: そうですね。自分で何も分からない状態で「じゃあ今日からやってみて」と言われても、なかなかできるものじゃないので。一つの方法として研修で話を聞きながらやる、というのはあると思います。
いま実際に自分自身が現場に入り込んでお手伝いしている中で感じるのですが、研修を入り口にして、その場で、いま自分がやっている業務をちょっと洗い出す。さらに、仕組みを作ってみよう、と言いながら、もう実践までしてしまう。そういうこともできるなと思っています。
ー経験を積む機会そのものが減っていく、という懸念もあります。
大平先生: いま世の中でも同じ懸念が語られています。これまで未経験者や若手が担っていた仕事の一部をAIが代替することで、経験を積む入口そのものが減るのではないか。でも、経験を積む場がないから、経験者になれない。そういう構造になってしまっている。
だからこそ、いかに経験を自分で積んでいくか、どこに向かっていくかが、すごく大事なのだろうなという気はしています。

ー最後に、これからの仕事や学びがどうなっていくか、お考えを聞かせてください。
大平先生:仕事と学びの境界が、かなりなくなっていくんじゃないかと思っています。
まず勉強してスキルを身につけて、そのスキルを使って仕事をする。その順番だったものが、AIと共にいれば、知らないことでもまずやってしまえる。必要な知識は、その過程で学んでいく。
そうなると将来的には、何を知っているかとか、何のツールを使えるか以上に、「自分は何を実現したいのか」「どんな問いを立てられるのか」の方が、価値が高くなる。そう思っているところがあります。
仕事についても、人が一つひとつ作業するのではなく、AIや仕組みがかなりやってくれるはずです。だから人間は、目的を決めたり、重要なところで判断したりする方向に進むと思うのです。
ただ、そこで新しい問題も出てくると思っていて。作業をAIに任せるほど、人間が仕事を通じて経験を積む機会が減っていく。だから、仕事の仕組みだけではなくて、人間がどう経験を積んで、判断できるように育っていくか。そこまでを設計するような社会になっていくんじゃなかろうか、と思っています。
ーその先の社会は、どうなってほしいとお考えですか。
大平先生: 私はその先では、AIで生産性を上げてたくさん働いていこう、ではないと思っています。人間が働かなければならない時間そのものを減らしていく。そういう方向にも進んでほしいなと、個人的には思っています。
そこで生まれた時間を、家族と過ごしたり、読書をしたり、何かを作ったり、何もしなかったり。そういうことに使っていけたら。それは、テクノロジーが人間の時間を人間に返していくということだと思うんです。それが、すごくいいなと思っていますね。
AIによって何ができるかが広がる未来以上に、人間は何をしたいのかが問われていく未来になるんじゃないか、とやっぱり思います。
ーその「自分は何をしたいのか」を考えること自体が、難しい方も多そうです。
大平先生: そうなんです。私が自分でアプリを作ったりしている根本的な考えとしては、人生を消費するんじゃなくて、発見にしようという、そういうテーマを持っています。
放っておけば、やっぱり時間は過ぎてしまうし、なんとなくやっていく作業もいっぱいあります。だけれども、本当に自分はそれに対してどう思ったんだっけ、何がやりたかったんだっけ、ということをちゃんと分かった上でやっていく。つまり、何かしら毎日発見がある。同じことの繰り返しであっても、それがある人とない人が、やっぱりいるので。
考えたことがないから、やりたいことは?という問いをいざ突きつけられると、考えることができない自分に驚愕する。「私、何もないみたいだ」となってしまう方もいらっしゃいます。
でも、それは能力の話ではないと思うんです。誰かの期待に応えたいとか、組織からこう言われているとか、そういうことが本当に多いんです。私は、やりたいことがないのではなく、それを考えたり、自分で見つけたりするための余白がないことも多いのではないかと思っています。
「3回やるなら、仕組みにする」。この基準の分かりやすさが、まず印象的でした。仕組み化というと大がかりな話に聞こえますが、大平先生の出発点は「楽をしたい」「明日も明後日も同じことをやりたくない」という、とても身近な動機です。だから「これ面倒だな」「ここよく間違えるな」が、そのまま入り口になる。
そして、AIに任せるほど人が経験を積む機会は減る、という指摘。だから「どこを自分で考えて、失敗して、経験を積むのか」まで含めて学習を設計する。これは、これからの育成設計を考えるうえで核になる視点だと感じます。
「自分が何をしたいか」を考えられないのは能力の話ではない、という言葉も印象に残りました。やりたいことがないのではなく、それを考える余白がないだけ。仕組み化とは、その余白をつくる作業でもあるのかもしれません。自社の仕組み化を考えるとき、その先に何を置くのか。あわせて考えてみたいところです。
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本記事は、2026年9月25日に実施したインタビューをもとに構成しています。発言は読みやすさのため一部整えています。
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